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15周年を超えてその先の未来へ。
シド、『SID 15th Anniversary GRAND FINAL
at 横浜アリーナ ~その未来へ~』

2019.03.10 横浜アリーナ

およそ1年間にわたって様々な企画が繰り広げられたシドの結成15周年のアニバーサリーイヤー、そのグランド・ファイナルが3月10日に横浜アリーナで開催された。
このライブが発表された時にマオが「絶対ここでやりたかった」と語ったように、2011年3月に予定されていた横浜アリーナ公演が東日本大震災を受けて中止になった、その深い感情と記憶を乗せて挑む晴れ舞台だ。
ファンの気持ちも同じだろう。広いアリーナは満員の観客でしっかりと埋め尽くされた。

ステージ後方の超ワイドスクリーンに映る、時空を超えて飛ぶ飛空艇の幻想的なアニメーション。
2003、2011、2018と、意味深な数字を刻みながら飛空艇は飛び、着陸と同時にメンバーがステージに姿を現すドラマチックな演出から、勢いよく始まった1曲目は「NO LDK」。
力強いミドル・テンポとマオの優しい歌声で会場内の空気を柔らかくほぐすと、2曲目「ANNIVERSARY」からは一気にスピード・アップ。派手なレーザービームが飛び交う中、「V.I.P」ではいきなりマオが客席へ飛び込んだ。高ぶる気持ちを抑えきれない、熱い気持ちが伝わるオープニングだ。

「今日はシドの15年間をぎゅっと詰め込んだセットリストにしてるんで、最後まで楽しんでくれ!」(マオ)

4人お揃いの、ミリタリー風のデザインによるシックなブラウンの衣装がかっこいい。
曲はまさにベスト・オブ・シドで、「cosmetic」「KILL TIME」「罠」と続くアダルトでファンキーなロック・チューンでは、Shinjiの鋭いカッティングと明希の強烈なスラップがグルーヴをリードする。
気持ちの入った演奏に、こちらの体も自然に揺れる。

「今日は15周年の大打ち上げ。シドのこれからを感じる最高のライブにしよう」(明希)
「ラーメンにたとえると、最近は太くて長い麺も増えてます。シドも太くて長いバンド活動をしていきたいと思ってます」(Shinji)
「この場所に、シドは似合ってますか? いろんな思いを今日のステージにぶつけたいと思います」(ゆうや)
「メンバーも、いつもよりいい顔してる。お前らも、もっといい顔してるぞ」(マオ)

四者四様の表現は、つまりファンに伝える15年分の感謝の思い。
2008年のメジャーデビューシングル「モノクロのキス」と、3枚目にあたる「嘘」は、シドの原点とも言えるソリッドなバンド・サウンド、ダンサブルなビート、憂いのメロディ、ロマンチックな歌詞を兼ね備えた代表曲だ。
そのキャッチーな魅力は昔も今もまったく変わらない。過去のどの時代の曲も大切に歌い続ける、それこそがファンへの最大の感謝の証だ。

中盤には「ホソイコエ」「2℃目の彼女」「スノウ」と、冬の情景を描く3曲が揃った。
降り注ぐ雪を映す雄大なスクリーンをバックに、白いスモークに包まれるステージは幻想的なほどに美しい。
そして季節は冬から春へ、「ハナビラ」ではスクリーンいっぱいに桜の花びらが舞い落ちる中、淡々とループするビートが別れを歌う歌詞の悲しみを倍加させる。
マオが全身全霊をかけて歌い上げる、ラストの超ロングトーンがくるおしいほどにせつない。
演出と歌がぴたりと寄り添う、素晴らしい名シーンだ。

強烈なノイズとバグった画像の中に浮かび上がる、ARE YOU READY?の文字。
穏やかな曲調が続いた中盤から急転直下、終盤はヘヴィでハードなロックンロール爆弾の連続投下だ。
「dummy」ではShinjiと明希がステージを全力で駆け抜け、マオがセンター席へ突入して観客にマイクを向ける。
さらにスピードを上げて「隣人」から「プロポーズ」へ、スタンドのてっぺんまでを巻き込んだヘドバン・パフォーマンスが壮観だ。
強力なヘヴィメタル・ダンス・チューン「眩暈」ではステージで炎の柱がぶち上がり、全員参加のタテノリ・ジャンプで床がぐらぐら揺れる。
真っ赤に染まるスクリーンと燃え盛る炎の中で幕を下ろした本編16曲は、15年間の歴史を80分に凝縮した、とことんソリッドでストイックなものだった。

そしてアンコール。イントロで悲鳴のようなどよめきが起こった「空の便箋、空への手紙」の、せつなさと呼ぶにはあまりに悲しすぎる永遠の別れを綴る歌詞と、もの悲しいワルツの調べが胸に痛い。
Shinjiの奏でるアコースティック・ギターのソロも、万感の思いを乗せた繊細でエモーショナルなものだ。

明希はTシャツ、ゆうやはノースリーブのロングコート、マオは白いボルサリーノに黒いファーコート、Shinjiはスーツに眼鏡。あまりにバラバラな衣装をネタに笑いを取る、4人の屈託ない笑顔が眩しい。
続けて「みんなに未来を見せたくて新曲持ってきました」と言って初披露した「君色の朝」は、美しいコーラスの入ったメロディアスなミドル・チューン。
包容力いっぱいの、15年目のシドを象徴する親しみやすい1曲だ。
そしてラスト・スパートは定番曲を惜しみなく、「循環」ではお馴染みの回転パフォーマンスで盛り上がり、「Dear Tokyo」「one way」と得意の高速ビート・ロックで全力疾走。
マオが「ここをライブハウスだと思ってぐちゃぐちゃにしてくれますか!」と叫ぶ。
言われる前にすでにそうしている、シド愛溢れる観客の一体感が凄まじい。

4月からメンバーズクラブツアー、6月には対バン形式のコラボレーション・ツアー、約2年振りのニューアルバム制作開始、そして秋から全国ホールツアー開催。
スクリーンに映し出される重大発表の連発に観客が沸いた。
16年目のシドはもちろん止まらない。その未来へ、光へ、目を向けよう――。
アンコール・ラスト曲「その未来へ」のリフレインを一緒に歌い続ける、この素晴らしいファンと共に築く未来は、きっと素晴らしい旅路になるはずだ。

「飛空艇のように不安定で、浮いたり沈んだりするのがシドです。それも込みで応援してください。
その代わりみんなが沈んでる時には俺たちが音楽で励ますから。任しといてよ!」(マオ)

最後に挨拶に立ったマオの、涙と笑顔でくしゃくしゃになった顔が、この日のライブの充実感を物語る。
15年間の、そして8年前の思いも乗せて臨んだシド初の横浜アリーナ公演は、シドにとって、シドを愛するファンにとって決して忘れられない1日になった。
全員の思いを乗せてその先の未来へ、シドという名の飛空艇の視界は良好だ。

取材・文◎宮本英夫
撮影◎今元秀明・緒車寿一

01.
NO LDK
02.
ANNIVERSARY
03.
V.I.P
04.
cosmetic
05.
KILL TIME
06.
07.
モノクロのキス
08.
09.
ホソイコエ
10.
2℃目の彼女
11.
スノウ
12.
ハナビラ
13.
dummy
14.
隣人
15.
プロポーズ
16.
眩暈
 
 
En1.
空の便箋、空への手紙
En2.
君色の朝
En3.
循環
En4.
Dear Tokyo
En5.
one way
En6.
その未来へ